RCEPの特徴と世間の誤解

ビジネス・経済

RCEPがついに先日署名されました。

従来のTPPや日EUEPAに比べて世間の関心はあまり高くないものの、産業界にとっては非常に大きな一歩だと思います。

RCEPはEPA/FTAと呼ばれる国同士の協定です。
今回はそんなRCEPが今までのEPA/FTAと何がどう異なるのか、RCEPの特徴について世間の誤解も含めて述べていきたいと思います。

そもそもEPA/FTAとは

FTAとはFree Trade Agreementの略であり自由貿易協定のこと、EPAはEconomic Partnershipの略で経済連携協定のことです。
EPAは経済全般の連携を広くカバーしており、その中の一分野として、FTAによる関税引き下げが含まれています。
そのため、特に関税引き下げについて述べる場合は、正確には「FTA」を使うことになります(EPAと言っても間違いではないですが)。

特徴①:中国・韓国と初めて締結されたFTA

何といってもこれに尽きます。
日本にとっては初めて中国・韓国とFTAが締結されました。
RCEP参加国は日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・ASEAN10カ国の計15カ国と、非常に参加国の多いFTAです。

その中で日本は、中国・韓国を除く全ての国と既にFTAが締結されており、RCEPが締結されても劇的な進化はありません(細かい部分はもちろん異なりますが)。
一方で対中国・韓国は完全に初めてのFTAであるため、これがRCEP締結による最も大きな変化点となります。

従来は中国・韓国ともに、自動車を含む工業製品にそれぞれ関税を課していましたが、RCEPにより工業製品の内約90%(品目数ベース)が関税削減の対象になるとのことです。
対象製品を日本から輸出する日系企業にとっては、価格競争力を高める願ってもないチャンスとなります。

しかしながら気になる点が2つほど。

関税率削減スケジュールの長さ

約90%の品目が関税削減の対象とされているものの、すべてが「即時撤廃」というわけではありません。
元々の関税率(MFN税率)が低かった品目を中心に関税が即時撤廃とされており、残りの品目については「段階的削減」とされています。
品目により、10~21年かけて少しずつ関税率が削減されるため、最終的に関税が撤廃されるのは、遅くてRCEP施行後21年となります。

対象品目の少なさ

そして2つ目が、その対象品目です。
上記とも関係しますが、段階的削減とされている品目や、そもそも削減の対象外とされている品目は、当然のことながら各国が自国産業を侵食されたくない品目になります。

最たる例は自動車です。
中国・韓国ともに、自国に自動車メーカーがあり、多くの雇用を抱える一大産業です。
関税率を下げてしまうと自国企業の競争優位性が薄れてしまうということで、自動車(特に完成車)については対象外とされています。

また、中国は電気自動車用のモーターが段階的削減の対象とされていますが、削減期間が16~21年と非常に長く設定されています。
現在電気自動車の世界最大市場で、今後も爆発的な伸びが予想されます。
国家として電気自動車産業の育成を強力に推進しており、今後中国企業が業界のトップに育っていくと思われます。
それまでの時間稼ぎとして段階的削減に留め、その間に中国企業の育成を推進するという思惑と思われます。

政府のアピールには違和感

これらの点、日本政府からは関税率削減を交渉で獲得した部分ばかり強調されていますが、実態としては重要な部分で削減を勝ち取れなかったのかな、という印象です(それよりとにかく確実に締結することを優先した感じですかね)。

特徴②:原産地規則のハードルの低さ

続いて2つ目の特徴は、原産地規則のハードルがTPPや日EUEPAと比べて低いことです。

一般的によく誤解されることとして、FTAが締結されている=関税率が削減される、ということがあります。
FTAに実務で携わっている方にはよく理解されていることですが、FTAが締結されているだけでは関税率は下がりません。
その国の原産品(例えばある製品が日本産)であることを証明し、必要な書類を揃えて、はじめて関税率が削減されます。

この「原産品」であることを決定するための定量的なハードルとなるのが、原産地規則(基準ともいう)です。
原産地規則は各FTAや品目により異なり、近年締結されたTPPや日EUEPA、更には日米物品協定(通称TAG)では、非常にハードルの高い原産地規則が設定されました。
例えば日本でより多くの付加価値や高度に性質を変えるような作業を行わないと、日本製と認められなかったのです。
そのため、実際に工場を日本に構えて製造をしていたとしても、その原産地規則を満たせないために、日本製と認められないケースが相当ありました。

RCEPにおける原産地基準

しかしながら今回締結されたRCEPでは、比較的ハードルが低く設定されています。
従来日本がASEAN各国やオーストラリアなどと締結していたEPAと同等の原産地規則とされており、TPPや日EUEPAと比べてクリアしやすい内容になっています。

この点、日本の産業界の声が大いに反映されたと思われ、実際に利用しやすいFTAとなりました。

結局RCEPはいつ始まるのか?

これまで述べてきたように、非常に期待の高まる内容であるRCEPですが、残念ながらすぐに開始とはなりません。
先日署名が完了したのになぜ?と思われる方もいるかと思います。

実は今後実際にRCEPが開始されるまでには大きなハードルがあり、それは各国内における批准手続きです。
これが完了しないことには、RCEPは開始されません。

今回発表された内容では、参加15カ国全ての国の批准が求められているわけではなく、ASEAN10カ国の内6カ国以上、その他5カ国の内3カ国以上、の批准が完了すれば良いこととされています。
ただ批准には相当の期間を要すものと思われ、少なくとも2020年・2021年の開始は難しいのでは、と見込まれています。

いずれにせよ、日本の産業界のみならず消費者にも大きなインパクトを与えるRCEP、今後の動向が非常に楽しみです。

それではまた。

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