いすゞ自動車(7202)の銘柄分析

企業分析

国内の商用車(トラック・バス)最大手、そしてタイを始めとした各国でカテゴリー別シェアトップのいすゞ自動車。一般の方にはあまり知られていませんが、いすゞ自動車はピックアップトラックで圧倒的な強さを誇ります。直近では同業のUDトラックスを買収したことでも話題となりました。

今回はそんないすゞ自動車について分析してみたいと思います。

いすゞ自動車の概要

いすゞ自動車は主にトラック・バスを製造し、日本の他世界各国で販売しています。日本国内では商用車業界の最大手ですが、世界では中国・欧米・インド系メーカーが上位を独占しており、いすゞはトップ10にすら入っていません。

商品ラインナップ

展開している商品としては、大型トラック、中型トラック、小型トラック、ピックアップトラック、産業用ディーゼルエンジンが挙げられます。これに加えて、日野自動車と合弁でジェイ・バスという会社を設けており、バスの製造・販売も行っています。

いすゞはその中でも特に小型トラックとピックアップトラックに強みを持っており、両カテゴリーが同社を象徴する存在でもあります。

連結売上高・販売台数

いすゞは約2兆円規模の連結売上高を誇る商用車国内最大手です。ちなみに連結売上高約2兆円という数字は、国内上場企業の中でトップ80位くらいに位置します。

2020年3月期実績の販売台数としては、大型・中型トラック合わせて約7万台/年、小型トラックで約18万台/年、ピックアップトラックで約26万台/年、他社向け産業用ディーゼルエンジンで約12万基/年となっています。やはり小型トラックとピックアップトラックを中心的存在であり、金額ベースで見た場合でもこの両カテゴリーが大半を占めます。

なおいすゞの商品が販売されている国や地域は世界約150カ国にも及びます。特にタイを中心とした東南アジアで高いシェアを誇る他、北米、中国、中東、中南米、オセアニア、アフリカなどでも着実に台数を稼いでおり、小型トラックやピックアップトラックのカテゴリーではシェアトップを獲得している国も多くあります。

競合

いすゞの競合としては、同じ商用車メーカーの日野自動車(7205)、三菱ふそうトラック・バス(ダイムラー傘下で未上場)が挙げられます。以前は国内商用車メーカーとしてUDトラックスも含めた4大メーカーでしたが、2019年にいすゞが約2,500億円で買収することを発表しており、2021年に買収が完了する見込みのため、国内商用車メーカーは3陣営に集約されます。UDトラックスは大型トラック、いすゞは小型トラックに強みを持っているため、それぞれ商品カテゴリーを補完し合う存在となります。

いすゞは国内の商用車市場において、大型・中型トラックでは日野自動車に次ぐ2位、小型トラックではトップを独走しています。ピックアップトラックは国内市場が皆無に近いため省略します。海外市場においても、日野自動車や三菱ふそうと比較してシェアは総じて高く、連結売上高で見てもいすゞがトップです(三菱ふそうはダイムラー傘下のため展開地域が限られますが)。

特に競合関係にある日野自動車とは、以下の表にて2020年3月期の実績を比較して見ていきたいと思います(単位:百万円)

比較項目 いすゞ自動車 日野自動車
連結売上高2,079,9361,815,597
営業利益140,58254,859
経常利益150,87649,596
当期純利益81,23231,467
自己資本比率44.3%42.5%
配当性向34.5%36.5%
国内大中型シェア32.5%39.0%
国内小型シェア42.4%26.9%
2020年3月期の実績比較

大・中・小型合わせたトラックのシェアに大差はありませんが、業績においては大きな開きがあり、特に利益の面では3倍近い差があります。業績としてはいすゞの圧勝と言っても良いでしょう。

決算・財務状況

いすゞの決算・財務状況について見ていきます。2021年2月8日に、2021年3月期第3四半期の決算が発表されましたので、その結果をベースにご紹介します。

損益

まず第3四半期のみ(2020年10月〜12月)の損益です。

引用元:いすゞ2021年3月期第3四半期決算説明会

第3四半期に限って見ると、なんと前年同期比でプラスに転じています。コロナの影響で苦戦しているイメージがありますが、実は自動車メーカーが軒並み前年同期比プラスの決算を発表しており、いすゞも同様です。この要因としては、中国を始めとするコロナが収束した国々での需要の急増、またコロナは収束していない地域でも需要が回復しつつあることが挙げられます。またいすゞのフラッグシップモデルとも言うべきD-MAXが2019年にフルモデルチェンジされて以降、販売が順調に推移していることも寄与しています。

一方で2021年3月期の累計(2020年4月〜12月)は以下の通りです。

引用元:いすゞ2021年3月期第3四半期決算短信

営業利益で見ると前年同期比44.5%減と、大幅なマイナスです。第3四半期に限ればプラスですが、第1第2四半期で前年同期比大幅なマイナスだったため、累計でもまだマイナスが続いています。しかし実態として足元で急速に業績が回復しており、通期予想も上方修正されました。

引用元:いすゞ2021年3月期第3四半期決算説明会

営業利益で言うと前回予想よりも200億円上積みされ、900億円となっています。足元の業績の回復具合を考慮すると、この上方修正された通期予想もまだまだ保守的と見られ、実際には1,000億円は確実に超えてくるだろうと思います。

バランスシート

続いて第3四半期終了時点のバランスシートです。

引用元:いすゞ2021年3月期第3四半期決算短信

自己資本比率は46.5%まで積み上がっており、非常に健全な状態です。これからUDトラックスの買収により多少影響はあると思われますが、2,500億円程度と見積もられていますので、いすゞであれば打撃となるほどの規模ではありません。

有利子負債も2,000〜3,000億円程度でここ数年コントロールされており、問題はないと見られます。むしろ安定的に利益が出続けていたおかげで内部留保が積み上がり過ぎな面もあり、度々自社株買いも行われています。買収や自社株買いといった機動的な対応が行われている点も評価できるかと思います。

キャッシュフロー

キャッシュフローは第3四半期の決算で公表されていなかったため、少し古い2020年3月期本決算時点の数字になります。

営業キャッシュフローは1,237億円のプラス、投資キャッシュフローは927億円のマイナス、フリーキャッシュフローは310億円のプラス、財務キャッシュフローは252億円のマイナスでした。

ちょうどコロナが蔓延し始めたころということもあり、在庫が積み上がったことなどが影響したようですが、それでもなお十分な営業キャッシュフローを確保できているといえ、フリーキャッシュフローも健全な水準をキープしています。

投資指標

次に、この記事執筆時点の2021年2月11日現在の投資指標です。

  • 株価 1,130円
  • 予想PER 29.2倍
  • 実績PBR 0.87倍
  • 予想EPS 65.1円
  • 年間配当金 20円(20年3月期の38円から18円減配)

通期業績が上方修正されたことで、若干予想PERは下がりましたが、従来は10〜15倍前後に収まっていたことを考えると、まだまだ高い水準になっています。ただ足元の業績の回復具合を考慮すると、来期は従来の利益水準に復活すると予想され、現在の株価も決して高くはないと思います。

株主還元

上記の通り、年間配当金が38円から20円に大幅な減配となっています。いすゞは業績連動の配当方針を掲げているため、純利益の落ち込みに比例して配当金も減額となってしまいます。その点、来期は利益さえ回復すれば、配当も元のレベルまで復活すると予想されます。

内部留保が相当溜まっている状況のため今期も減配せず配当を出すことは可能だと思いますが、CASE対応等の投資が優先事項であることから、律儀に連動しての減配となりました。

個人的には、投資優先で無理に配当を維持せず、業績拡大による株価上昇で報いようとする現在の方針で問題ないと思っています。その上で株価が急落した際には自社株買いを機動的に行ってくれることが理想的です。

課題と今後の見通し

ここまで主に、いすゞの概要や第3四半期決算に基づいた財務分析をしてきましたが、いすゞが現状抱えている課題や今後の見通しについても分析したいと思います。

CASEへの対応

現在自動車業界は「100年に一度の大変革時代」と言われています。特にConnected、Automated、Shared、Electricの頭文字を取ったCASEが盛んに叫ばれています。

乗用車ではトヨタ・日産・ホンダを筆頭にCASE対応を推進していることが連日報道されています。一方で商用車業界はあまり報じられることがありませんが、果たしていすゞはどのような状況なのでしょうか。

いすゞのCASE対応に関する情報はあまり多くなく、実際やや出遅れ気味のように感じます。有価証券報告書ではCASEについて簡単にふれられていますが、決算説明会資料等では全く取り上げられていません。

2021年2月の報道で、2021年度に開始される新たな中期経営計画において、ボルボとの提携と合わせてCASE対応に1,000億円をつぎ込むことが発表されました。今後どのように進展するかは未知数ですが、ようやくいすゞも本格的なCASE対応の動きが見られたと言えます。

商用車は既定のルートかつ幹線道路を走行することが多く、ある程度パターンが確立しやすいことから、乗用車よりもCASEに馴染みやすい(長距離走行の場合、電動は逆に厳しいですが)と言われています。自動運転も今後数年で本格的な運用が始まると見込まれており、いすゞの今後の進捗が気になるところです。

他社との提携

前述の通り、スウェーデンのボルボとの提携が発表されました。自動車業界でCASE対応が必須となる中、開発領域が多岐に渡るため自前で全て対応することは現実的ではありません。従来いすゞは基本的に自前路線でありながらも、GMやトヨタなどと提携をしてきました。

しかし本格的なCASE対応が必要となる中で、トヨタよは2018年に資本関係を解消、アメリカのディーゼルエンジンメーカーのカインズと包括的提携、ホンダと燃料電池の共同研究契約締結、UDトラックス買収、ボルボとの戦略的提携など、多くの動きがありました。

欧米系企業との「提携」が中心であり、資本に大きく踏み込んだ関係ではないことから、関係性が中途半端になってしまう可能性もあると考えられます。一方で機動的にかつ特定の領域に限定した関係を築くことができるメリットもあります。いすゞの提携戦略がどちらに転ぶかは分かりませんが、これら一連の提携戦略が今後のいすゞの命運を握ることは間違いありません。

さいごに

ここまでいすゞの現状と今後の見通しについて分析してきました。コロナの悪影響を乗り越え、足元の業績は急回復しており、向こう1〜2年は堅調に推移することが見込まれます。

ただし、自動車業界を揺るがすCASE対応が喫緊の課題となっており、いすゞは若干出遅れ気味と見られます。一連の提携によってここからどのように巻き返していくかが注目されます。経営体力が盤石な今の内に将来に向けた種まきを進め、将来的に世界のトップ商用車メーカーに割って入るような成長を期待します。

長くなりましたが最後までお読みくださりありがとうございました。

それではまた!

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